暗号解読 上・下 / サイモン・シン、青木薫訳
- 作者: サイモンシン,Simon Singh,青木薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/06/28
- メディア: 文庫
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読了。本書は技術書ではない。ノンフィクションだ。
暗号技術そのものについて学ぶのではなく、暗号技術の歴史についてのエピソードがつづられている。比較的シンプルなカエサル暗号から、ヴィジュネル暗号、エニグマ、古代文字の解読、PGP、量子暗号まで、暗号についての見識はこれ一冊読めば、かなり深まるのではないか。そういった意味でも意義のある本だ。しかも読みやすく、面白い。
ただ、暗号の仕組みなどをくどくどと説明する箇所が、すこし冗長で、難しい。もしかすると、その冗長さが再読にも耐えうるのかもしれないが。
この本に関する不満点は一点だ。補遺がある。本文には収まりきれない補遺(Appendixの意だが、本書では解説と同義だろう)があることは、前作「フェルマーの最終定理」と同様なのだが、これが下巻の巻末にしかない点。上巻だけを通勤中に持って行き、本文中に「この説明は補遺Aに示す」などと書かれると、補遺が参照できない。この点に関してだけはユーザビリティが低いのではないか、と思った。
内容は素人でもわかりやすく書いてあるとはいえ、ノンフィクションとしては難解な部類に入るだろう。
電子暗号のくだりは、コンピュータの知識があればなおわかりやすい。前作「フェルマーの最終定理」で事前に"モジュラー"なる計算法の存在を知っていれば、理解も深めやすい。RSA暗号が完成された箇所などは、非常にドラマチックだ。また、PGPの法廷問題など、本来の暗号の趣旨よりも裏話のほうが興味を引いた。
そして、極め付けが最終章の量子暗号。正直、これは難しい。ぜんぜん理解できない。だが、こんな言葉がある。
めまいを覚えずに量子力学について考えることのできる人は、量子力学がわかっていないのだ
下巻 p.235
まずは一安心だ。
一通り読んで思ったことは、暗号と戦争は切っても切れない関係で、その点が多少血生臭く、嫌悪感を否めない。コンピュータ時代以前のほとんどの暗号は、自国が勝つため、敵国に負けないための国防技術なのだ。
自分には、本書の中では番外に入るであろう、平和的な、古代文字解読の章が一番興味深く読めた。
暗号の、単語出現の頻度分析などは、圧縮技術にも通じる部分があったりするのではないかと思ったが、それはあっさりスルー。