宇宙消失 / グレッグ・イーガン

「虎よ、虎よ!」の前に読んでいた小説。これは非常に面白い。「ナノテクと量子論が織りなす、戦慄のハードSF」とあるように、ほんの少しだけ、量子力学について知っていると、なおいっそう面白い(といっても、量子論の基礎でもある有名なシュレーディンガーの猫の概念を知っていれば十分、という程度のもの)。

宇宙消失は、バブルという謎の物体が天を多い、星が見えなくなったという2034年の世界が舞台の近未来SFだ。そこでは、脳に直接結線するナノマシンが当たり前の世の中だ。例えば、警察官は感情を高ぶらせないように、ナノマシンで脳内物質を直接コントロールできたり、ゲームソフトを脳内で遊んだり、など。

物語の冒頭、主人公に人探しの依頼が入る。それは、退屈な探偵ものでSF的な設定はナノマシンに終始しているのだが、中盤からの物語の、量子論を基にした圧倒的展開が凄まじい。本当はあのことや、あのことなどに、知的好奇心をとても刺激された!などと具体的に書きたいのだが、あまり書きすぎると、イコール、ネタバレとなってしまうのでやめておく。

先のシュレーディンガーの猫のWikipediaの解説によれば、量子力学には、コペンハーゲン解釈エヴァレットの多世界解釈があるらしい。「宇宙消失」はこの両者をミックスしたような解釈で話を進めている。ハードSFマニアからすると、ここが文句の付け所、なのだろうが、お話としては楽しかったし、盛り上がったから、これはこれでよろしいのではないだろうか。

宇宙消失 (創元SF文庫)

宇宙消失 (創元SF文庫)

原題は、"QUARANTINE"(直訳では、隔離)。「宇宙消失」よりも「隔離」のほうが、読後にはしっくりくる。ただ、「宇宙消失」という題名のインパクトが、この作品を本屋で手にとってみる動機にもなったことは確かだ。