イノベイターが育つ環境

続々と繰り出される新サービスを見て思ったこと。

はてなと子会社のHatena Inc.は12月13日、新サービス「はてなワールド」と「はてなハイク」をクローズドベータ版として公開した。

これって、実際、どの程度おカネに結びつくんだろう……。

とある小さな企業に勤めるおれは思ってしまう。

以前、こんな記事がもてはやされた。

ともかく、みんな「リスク」とか「不確実性」とか、そういう浄化されたビジネス用語をつかって説明しようとするからリアリティーがないんだ。

いまの日本のITイノベーションに足りないのは、転んで生傷をつくりまくる失敗経験だよ。

「10のチャレンジのうち9の失敗をよしとする」ということは、それ自体、相当の覚悟と思考体系の適応力が求められる難しいテーマ。ハンパに受託をやりながら、そういうマインドを維持できると思ってる人がいるとは、いかにもおめでたい。

おれはこういうことが、さも当然とばかりに言える立場がうらやましい。上のような記事で受託は悪だ、イノベーションが生み出されない、みたいなことを言われると、正直参ってしまう。

おれの勤める会社はまだまだ小さい。企業として安定してカネを稼げる方法を模索している真っ最中だ。もちろん、持っている仕事の80%は悪名高い受託案件。と言っても、下流の孫請けではなく、開発の上流からタッチできる案件にたずさわれている分、まだマシなのかもしれない。

カネにならない新サービス

はてなワールド」「はてなハイク」、正直二つともすぐにカネに結びつくサービスだとは思えない。ただ、はてなのブランド力は上がるだろう。新サービスを立ち上げ、それを喧伝することで、組織の技術力をアピールし、自社ブランド力を上げ、直接収入よりも間接収入を重視する傾向が見て取れる。

間接収入を期待するというビジネスモデルは、基礎となる直接収入があればこそ行える。

いままさに、その基礎作りに従事しているものとして、一見、無茶とも思えるはてなの経営方針が、一方ではとてもうらやましく、輝いて見えるのだ。技術者としての自分の葛藤がまさにここにある。

どちらもとても魅力的な事柄だ。だが、最近では、どうも後者のほうばかりが目立ち、「好きを貫け」などと周りが増長する。ともすれば大前提である前者がおろそかになっているのではないだろうか。

履き違えて欲しくないのが、「好きを貫く」場が自然発生的に出来上がっているわけではないということだ。「場」を構築する過程では、「好きを貫く」などと軽々しく言えない場面だってある。そういうことを考えていると、しばしば「好きを貫く」論には違和感を覚えるのだ。

「好きを貫く」ことはエキサイティングで否定はしたくないのだが、後進の人間が「好きを貫く」場を築けることも同様に、いや、それ以上にエキサイティングだ、ということも忘れないで欲しい。

イノベーションと対価

イノベーション至上主義で、ピリピリした技術競争の中に身を置くのもいいだろう。そこでおれが心配するのは、従業員への「対価」だ。好きなことやらしてあげてるんだから、こんだけ(すくない給料)で我慢してね、などというのは明らかに経営側の怠慢だ。

十分な対価を与えることのできる組織の基盤が築けて、初めてイノベーション云々と言えるのではないだろうか。

また、「イノベーション」にもいろいろあり、イノベーション的経営を行っているのもまた、はてなであると言える。安易にロールモデルにはしたくないのだが――それはそんな組織を継続させていることへの嫉妬でもある――、彼らに学ぶべき点が多いことも確かだ。

海のものとも山のものとも判断できぬサービスを頭ごなしに否定せず、長期的に、十分な対価をもって、見守ってやれる組織こそ、真のイノベイターが育つ環境なのではなかろうか。

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

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# 現時点で、最も模範にしたい企業といえば、サイボウズDeNAかなー。

# あ、あとドワンゴも。